第2回 BL小説コンテスト 受賞作品

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大賞
ラスト・プルバック
手放したのは体ではなく、心だった。-
審査員からのコメント
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内藤みか 先生
実はこの作品、全入選作品の中で、最も短いのです。必要な部分だけを残し、説明部分など冗長になりがちな部分を最大限にカットしたというところに技巧が光ります。長ければいいというわけではないのです。大作家であるスティーブン・キングも『書くことについて』という本のなかで「10パーセントの削減ができないとしたら努力が足りないということになる」と書いているほど、作品を見直し、カットすることは必要であり大切なことなのです。
『ラスト・プルバック』はまさにそれを隙なく実現させている作品であり、群を抜いて筆がたち、ストーリー、キャラクター、恋愛表現すべてにおいて審査員の高得点を獲得しました。谷崎さんはプロとしてデビューされたとのこと、おめでとうございます。今回もビジネス社会の男たちの愛憎を専門用語を巧みに交えてリアルに描かれたように、様々な設定が書けるかたなので、きっと今後も長くご活躍されることでしょう。 -
月東湊 先生
ダントツの完成度でした。文章力と構成力もさることながら、難しい業界のことをしっかりと調べ上げて書かれており、その意欲が素晴らしいと思いました。登場人物も皆ちゃんとブレなく描かれているために「生きて」おり、彼らが感じた悔しさももどかしさもわが身のように感じることができました。
ただ、物語としては単調に感じました。その単調さを、文章力と構成力で煙に巻いたような、不思議な印象でした。交互視点のため、二人がそれぞれ考えていることが読者として分かってしまうので、展開として意外性が薄かったからかもしれません。
そしてラスト。私としては、もう一段カタルシスが欲しかったです。思いが通じ合ったのは良かったのですが、この二人はこれからどうしていくのだろう…と、ライバル会社の社員のままならばあまりにハードルが高くないか、とか、片方がもう片方の職場に転職するのも勿体ないとか、先行きの不安のほうが募ってしまったので。
明るい未来を提示していただければ、もっと満足感を大きくできたと思います。とはいえ、こんな感想が出るのも、物語に没頭できたからです。面白い物語をありがとうございました。 -
成瀬かの 先生
面白かったです!最後まで一気にぐいぐい読まされました。
お仕事描写が多いですが、そこが「本当は好き合っている二人が巨額の利益を奪い合う敵同士の間柄にある」構図に臨場感を与えてます。豊岡が白の前では汚い真似をしたくないと、偶然知ってしまった情報を知らなかったことにしたエピソード、萌えました!
絶妙のバランスでびしっと組み上がったお話で読んでいて気持ちよかったです。
これからどうやって一緒にいるのかな?豊岡が転職するのかな?という細かな疑問は残りましたが、最後の二人の会話も軽妙で、明るい未来を歩んでゆくのだろうなと予感させられました。
審査員からのコメント
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特別賞
全力ひまわり
人生初の交通事故。利き手を骨折した俺の、世話係を買って出たのは事故の加害者で。-
審査員からのコメント
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内藤みか 先生
これはですね、絵描きと学生との恋物語なのです。その男性はひまわりの絵と関係があり、そうなるとどうしてもゴッホを思い浮かべてしまう私です。これは絶対ひまわりじゃなくちゃならないかな、別の花でもよかったんじゃないかなと考えたりもしました。そしてタイトルに全力とあるわりにはキャラクターは全力出してない感じもあり、でも気になったのは実は言えばそのタイトルまわりだけ。あとは本当に楽しく読ませていただきました。
とにかくキャラが立っているのがよかったですね。好感を持てる誠意あるキャラが多く、友人や恋のライバルまで丁寧に描いていますので二重三重に関係性を楽しむことができておいしいお話に仕上がっていてとてもよかったです!あと私のリクエストとしては、冒頭がせっかく事故という特異なシチュエーションなのだから、自己紹介的なつぶやきからではなく、事故から入ってもらいたかったかなという思いはあります。 -
月東湊 先生
面白かったです。文章も上手く、すらすらと読めました。読者として没頭して読んだ作品の一つです。
だからこそ、ところどころ惜しいなと思いました。少しずつ手を入れれば、きっともっとカタルシスが溢れる話になったと思います。
一番勿体なかったのが、大事なモチーフである「ひまわり」の使い方です。ラストで沢山使われるのに、前半の出番が少ないんです。長野話で出てくるだけでは足りません。星野に「蒼太くんはひまわりみたいだ」と言わせるとか、あちこち散りばめられます。
再会のきっかけも、何気なく手に取ったフライヤーじゃ頼りないです。このフライヤーを見つけなかったら、蒼太は星野のことを諦めていたの?という気分になってしまいます。
例えばここで「ひまわり」の出番です。最近話題になっている「ひまわり」のイラストで気づくとかにすれば、星野はずっと蒼太を思い続けていたことにできますし、星野の才能ある設定も上手く使えます。
せっかくタイトルにもしているのですし、もっと、クサいくらいに、効果的に使ってみてください。ストーリー自体は面白いのですから、このような小技にまで神経を注ぐことができれば、もっと素敵な話になると思いました。 -
成瀬かの 先生
素直な文章でテンポもよく、最後まで一気に読めました。
下手くそな星野の料理を「俺が第一号?」と喜んで食べる蒼太の性格は好感が持てますし、敵役の長嶺さんはほどよく憎らしく、後の転落の仕方もほどよかったです。
蒼太が星野を好きになる課程もわかりやすいですし、横恋慕の陸人も健気で嫌みがありません。
お話のバランスがよく綺麗にまとまっているのですが、いろいろあった別離の後、どうやって再会するのだろうと思ったら、割とあっさり再会してしまっていて折角の盛り上げポイントなのにもったいないなと思いました。
審査員からのコメント
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優秀賞
たったひとつのサクラソング
心を揺さぶるギターと歌声で道ゆく人々を魅了する遼平と哲志。音楽に打ち込む2人の物語。-
審査員からのコメント
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内藤みか 先生
すごくわかりやすいお話なんで、審査していても好感度は高かったお話です。お話も難がなく、そつなく進んでいく感じです。相手の男の子が少しひねくれた行動を取るのも可愛いです。でも、路上ライブ、才能ある男子、自分の想いを曲にする、デビュー決定……こう並べてみると、なんというか、先が透けて見えてしまうお話なんです。意外な展開がなさすぎて、ある意味トントン拍子に話が進んでいってしまうのはとても惜しいなと。
ここからさらにワンランク上がるためには、お話をもっと練り込み、読者が先を読めないような展開に持って行く技術が必要です。もっと二人の関係を揺るがす”意外な”困難をドラマティックに描きこみ、二人のキャラをはっきりと描き分けること。そうすれば読者の心をよりぐっと掴んで離さない作品になる可能性は大いにあると思います。 -
月東湊 先生
実は私は、このお話に最高得点を付けました。今回の最終選考作品の中で、一番展開にはらはらしながら、物語に入り込んで読めたからです。楽しい時間をありがとうございました。
と言いますのも、当て馬であるはずの主任が魅力的だったからです。正直言って、読み終えた今も、狩野くんは哲志ではなく主任とくっついたほうが幸せなんじゃないかという思いが消えなかったりします。哲志とくっつくんだろうなぁと思いながら、主任とのハッピーエンドの希望を捨てられずに、最後まで一気読みしたというのが真相です。
とはいえ、BLにおいて、主役よりも当て馬のほうが魅力的というのは致命傷です。おそらく作者さんにとっては、哲志のほうが主任よりも魅力的なのでしょうから、それならば、彼をより魅力的に見える書き方をする必要があります。
例えば、哲志の女遊びの激しさについて、最後の最後でその理由が出てきますが、ちょっと遅すぎます。もうその時点では、狩野くんの思いと同調して「酷い人」という印象が強くなっていますから、なかなかマイナスが挽回できないんです。早いうちから匂わせておくと良かったですね。
一人称小説は、簡単なようでいて実はとても難しい書き方です。主役から「見えていること」だけを書くのでは足らず、主役に「見えていないこと」をそれとなく盛り込まないといけないからです。そのあたりに気を配れば、さらに面白い小説にできると思いました。 -
成瀬かの 先生
読みやすい文章で、内容もバランスよく綺麗に纏まっています。
流れも自然ですし、描写も丁寧。地力を感じるというか、最後まで安心して読めました。
両片想いなのに主人公は上司と躯の関係を持ってしまっているのですが、この恋敵が本命の哲志より大人で魅力的で、正直主人公カップルより上司の幸せを祈ってしまいました。これもキャラをきちんと書けているからこそだと思います。
取り立てて悪い点はなかったのですが、冒頭を読んだ時点で、この二人がくっついて音楽で大成するんだろうなということが予想でき、最後までその枠を越えられていません。読者の予想をいい意味で裏切る何かがあれば、更にひとつ上の作品に仕上がったのではないかと思います。
審査員からのコメント
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優秀賞
showcase.
美しい青年が築く 甘美なトライアングル-
審査員からのコメント
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内藤みか 先生
これはとても美しい物語です。文章力もあり、読ませます。私も演劇をやりますが、作者さんも相当な専門用語、それこそ現場で実際に動いていないと知らないような用語まで駆使しているので、演劇にはお詳しいのでは? と感じるくらいにリアルでした。読者も演劇の世界を共体験できてとてもいい試みです。そしてステージの上に立つ苦しみと人間同士のヒリヒリするような感情もよく描けていると思います。ただ惜しむらくはとても長いということ。演劇関係の説明が多すぎるので、そこをわかりやすく噛み砕き、コンパクトにしていけば、大幅カットも可能なはず。書きあげるだけでなく、その後にカットしていく作業にも慣れていくことで、入賞の可能性大です。 -
月東湊 先生
芸術的な雰囲気が漂う、読み応えのあるお話でした。作者さんはこの業界の方なのでしょうか。もし調べて書かれたのであって、ほかの業界のこともこの密度で書けるのでしたら、それはすごい才能だと思います。
ただ、すごいことは確かなのですが、少々蘊蓄が濃すぎるかなという気もしました。特に前半、物語の展開に関係のない蘊蓄はかなり削ってもいいかもしれません。小説は「何を書くか」ではなく「何を削るか」の勝負だと言います。知っていることを全部書くのではなく、どう削って研ぎすますかに気を遣ってみてください。
そしてここからは、読者としての個人的な感想です。「息が、できない」とまで苦しい心のうちを吐露した銀次くんを、私は赤羽くんに救ってあげてほしかったと思いました。赤羽くんは自己解決して銀次くんを見守る側に回りましたが、銀次くんは苦しいまま救われていない気がするので。私にとっては、苦い話でした。
こんな感想が出るのも、話に入り込んで読めたからです。濃い時間をありがとうございました。 -
成瀬かの 先生
照明の仕事を題材にしたお話は初めて読みました。お仕事の内容まできっちり書き込める知識量は圧巻です。(もしかしてペンネームもあの劇作家からとったのでしょうか?)
筆力も素晴らしいものがありました。
特にお話の後半に入ると、妙に思わせぶりだった銀次というキャラクターがなぜそういう風なのかがわかって一気に面白くなり、艶やかで異常な世界が華開いた感がありました。正直、前半を読んでいた時にはここまで綺麗にまとまった作品になるとは思っておらず、読み終わってすぐもう一度読み直したくらいです。
最初からラスト近くと同じテンションで書かれていたら、一位か二位をつけられただろうと個人的には思っています。
どう評価するか非常に迷いましたが、私が四位をつけたのは、冒頭から中盤までが説明過多で展開がもたついてしまっていたため。主人公の行動をここまで丹念に追う必要はありません。照明や舞台の説明も必要な部分以外思い切って削ってしまえばお話が引き締まってもっと読みやすくなったと思います。
審査員からのコメント
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優秀賞
君の世界に見える色
右目が白黒にしか見えない青葉雪と人気者の望月透真の恋-
審査員からのコメント
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内藤みか 先生
私はこのお話、好きです。とてもセンスのいい物語でした。セリフも情景描写も美しく、全編にわたってせつないムードに満ちていました。別れのシーンも絶望感があって、良かったです。この綺麗な感覚に魅了されるだけに、キャラクターの弱さがすごく残念。のめりこめるようなストーリーと、共感できるもしくは応援したくなるキャラクター作り。これを備えられれば、人気作家さんになるのではないでしょうか。 -
月東湊 先生
設定がとても良かったです。最終選考作品の中で、一番エンターテインメントに富んだ物語らしい小説だったと思います。
ただ、この物語をBLにする必要はあったのでしょうか。むしろ、謎を小出しにしてミステリー仕立てにすれば、感動的なジュブナイル小説にできるのではないかと思いました。
例えばこのお話は、雪が男の子である必然性がないんですね。女の子にしても十分に通用する話で、むしろそのほうがすんなりと恋愛ものに仕上がるでしょう。
さらに、お話の中にほとんど出てこない透真と優斗の実の両親とか、雪の親の話も入れて深みを持たせれば、家族愛の物語にもできます。凝った設定だからこそ、なんにでも化けられるお話ですので、その設定を生かす最適な舞台を見つけてあげてください。
文章量としては、今回一番か二番くらいに多かったでしょう。この長さの、入り組んだ複雑な物語を最後まで書き終えられたことは、自信をもっていいことだと思います。いろいろと書きましたが、BLだと意識しなければ、読んでいて楽しい意欲作でした。ありがとうございました。 -
成瀬かの 先生
或る一人以外はモノクロに見える片目、という設定がユニークです。学園物かなと思って読み始めたのですが意外な広がりを見せ、謎を紐解く鍵となる施設時代のエピソードを読んでいる時はどきどきしました。
年齢設定の割には話し方や考える内容が賢くて高校生時代との差違があまり感じられませんでしたが、もう少し可愛らしく無邪気にした方が、時の移り変わりが明確になったのではないでしょうか。
鯉の絵や水中から見た月、クラゲなど、美しいシーンがたくさんあって酔わされます。
優しい独特の雰囲気がある地の文章にも、非常に魅力を感じました。
審査員からのコメント
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